2025/5/28
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チョ・ソンジン 来日前インタビュー!
チョ・ソンジンが10月にビシュコフ指揮チェコ・フィルと来日!
前回の来日時には、研ぎ澄まされたラヴェル作品演奏で聴衆の熱狂を呼んだチョ・ソンジン、今回はラヴェルのピアノ協奏曲 ト長調を東京と大阪で披露します。
取材・執筆:高坂はる香(音楽ライター)
—ビシュコフさんの指揮するチェコ・フィルハーモニー管弦楽団とは、これまでにも共演されたことがありますね?
はい、2年前のことです。以前パリで共通の友人を通じ、フランスの作曲家のティエリー・エスケシュさんが僕のコンサートに来てくれました。それをきっかけに作品を書きたいと言ってくださり、僕は現代作品にとても興味があったので喜んで承諾しました。その世界初演でご一緒しています。
—ご自分のために書かれた作品の世界初演は、いかがでしたか?
作曲家とコミュニケーションを取り、質問できるのは興味深いプロセスでした。モーツァルトやショパンとはそんなことは不可能ですからね!
ただ世界初演ということが初めてだったので、本当に苦労しました。リハーサルは3回ありましたが、実は1回目が全然うまくいかなかったのです。
参考になる音源は全くなく、すべて想像を頼りに音楽を組み立てなくてはいけません。自分なりに勉強したつもりでしたが、多くの部分が勘違いでうまくいかなかった……。もっと周到に用意しておくべきだったのに、僕の準備が不十分で、そのうえすごく緊張していました。自分でも明らかにうまくいかなかったと感じる失敗でしたが、ビシュコフさんは優しくサポートしてくれて、苦言を呈すわけでもなく、むしろ大いに励ましてくれました。とても聡明な指揮者であり、温かい心の持ち主です。
初日のリハーサル後、真夜中の0時か1時まで必死に練習しました。そして、2回目、ゲネプロでは良くなって、最終的には、プラハ、ブダペスト、ザグレブで全5回の公演を無事に終えることができました。
—大変な機会を一緒に乗り越えて、絆が深まったのでしょうね。チェコ・フィルにはどんな印象がありますか?
ほとんどの方が覚えていないと思いますが、実はチェコ・フィルとはずいぶん昔に日本ツアーをしています。
それは2011年の3月のこと。東京、大阪で公演をして、福岡公演の日に東日本大震災が起きました。東北から遠かったので、福岡、翌日の広島と、コンサートは予定通り行われましたが、3月13日の東京公演は、完売にもかかわらず60%ほどしか客席が埋まっていませんでした。多くのお客様が来られなかったのだそうです。その後、浜松国際ピアノアカデミーに参加しましたが、途中で中止になりました。日本のみなさんにとって、とても辛く厳しい時期だったと思います。
その環境の中でも、チェコ・フィルの特別な音色は僕の記憶に強く刻まれました。当時まだ16歳でオーケストラ経験はあまり多くはありませんでしたが、それでも彼らの弦楽器の音色、流れる音の美しさに特別なものを感じたのです。僕にとって新しい経験でした。
チェコ・フィルはヨーロッパの数々の優れたオーケストラの中でもユニークです。豊かな伝統が受け継がれた特別な個性や音色が、僕の好みに合っているのだと思います。前回の公演では、後半にストラヴィンスキーの「ペトリューシュカ」を演奏していましたが、すばらしいパフォーマンスでした。
チェコ・フィルとは今後もいろいろな計画があるんです。ずっと良い関係が続くことを願っています。
—最近ラヴェルの全ピアノ作品の録音をリリースされましたが、その視点から、ラヴェルが晩年に書いたピアノ協奏曲にはどんな印象がありますか?
ラヴェルが人生の終盤に書いた音楽からは、どこか“Chill”な空気感というか、リラックスしたものを感じます。特に2楽章はすべてのピアノ協奏曲の中で最も美しい楽章の一つだと僕は思います。
この楽章を演奏する時に思い浮かべるのは、優しく微笑んでいるけれど瞳に涙を浮かべている人です。その感情を表現するのは難しいですが、何度も演奏する中で、少しずつそれを表現する境地に近づけている、かも……(笑)。
—その意味では、1楽章、3楽章とのコントラストが大きいですね。
そうですね。でもリズミカルな1楽章にも、カデンツァの後にはピアノとオーケストラがユニゾンする感動的なパートがあります。終楽章はジャズ調でユーモラス、まるで花火のようで、短いけれど難しいです。スペイン音楽の要素も感じられる部分があります。
例えば1楽章のはじめのトランペットソロの後の第一テーマにもスペインの雰囲気を感じます。
—冒頭の部分はグリッサンドが連続して印象的ですが、あのグリッサンドを鮮やかに演奏するコツはあるのですか?
あのグリッサンドは特に難しいことはないですよ。まだ演奏したことがないですが、例えばブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」のグリッサンドは難しそうだと思います。でもラヴェルのグリッサンドは一本の指で弾くので簡単です。小指一本でやってもいいくらい(笑)。特別な練習はしていません。
—ところでショパンコンクールからちょうど10年が経ちましたね。
そうなんです、とても悲しい!
—悲しい? どうしてですか?
歳をとったからです(笑)。20代前半と比べて疲れやすくなっていると気づいて、去年からジムに通い始めました。
先日、ある韓国のファンの方の手紙に、彼女は僕がショパンコンクールで優勝した頃お腹に赤ちゃんがいて、今はその子が小学生となりピアノを習っていると書いてありました。嬉しい話だと思うと同時に、あの年に生まれた子がそんなに大きくなっているんだと思うと少し不思議な感じがしましたね!
—忙しく演奏活動を続ける中、今のアーティストとしての生活をどう感じていますか?
以前よりリラックスしている感覚はあります。昔はもっとシャイでしたが、だんだん自分を表現することへの怖さが減って、オープンになったな気もしています。もちろん人を不快にすることがないよう心がけていますが、人と議論ができるようになりました。前はそれができませんでしたから。
ただ、かつては近くにミュージシャンの友達がたくさん住んでいて、パンデミック中などほぼ毎日のように誰かと会えていたのに、みんな卒業や就職、結婚を理由に別の街に移ってしまったことが少し寂しいですね。
◆チョ・ソンジンのアーティストページはこちら
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◆チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のアーティストページはこちら
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